音声電話の基盤を自社で作る方法|番号・回線・PBXの選び方と構築6ステップ【2026年最新】

社内の内線をまとめたい、コールセンターを立ち上げたい、自社アプリに通話機能を入れたい。きっかけは違っても、音声電話の基盤を作るときに決めることは同じです。どの番号を使うか、どの回線でつなぐか、誰が呼を制御するか、どの端末で話すか、どう守るか。この5つを順に決めれば、クラウドPBXを契約する場合でも、Asteriskで自前のPBXを立てる場合でも迷わずに進められます。

ここでは電話の仕組みをはじめて触る方に向けて、部品の役割、3通りの作り方の違い、構築の手順、つまずきやすいポイントを順番に説明します。

音声電話の基盤は5つの部品でできている

固定電話もスマートフォンの通話アプリも、裏側では同じ部品の組み合わせで動いています。最初に全体像をつかんでおくと、見積もりや提案書を読んだときに「どの部品の話か」が分かるようになります。

部品 役割 具体例
電話番号 外から電話をかけてもらうための宛先 03などの市外局番から始まる番号、050番号、0120・0800のフリーダイヤル
回線 公衆電話網と自社の設備をつなぐ道 ひかり電話、SIPトランクサービス、クラウドPBXに付いてくる回線
呼制御 着信をどこへ回し、発信をどこへ出すかを決める頭脳 PBX(Asterisk、FreePBX、クラウドPBX)、CPaaS(Twilioなど)
端末 人が実際に話す道具 IP電話機、PCのソフトフォン、スマートフォンアプリ、ブラウザ通話
ネットワークと運用 音声を途切れさせず、不正利用から守る仕組み 社内LAN、VPN、ファイアウォール、録音、通話ログ、監視

インターネット回線の上で音声を運ぶ技術をVoIP(Voice over IP)と呼び、電話をかける・受ける・切るといった手続きには多くの場合SIP(Session Initiation Protocol)という通信規約が使われます。声そのものはRTPという別の通信で流れます。SIPが「呼び出しと切断の合図」、RTPが「声の運搬」と覚えておくと、後で出てくるファイアウォールの設定が理解しやすくなります。

作り方は大きく3通りある

同じ「音声電話の基盤」でも、どこまでを自社で持つかによって作り方が変わります。

作り方 自社で持つ範囲 向いている場面 気をつける点
クラウドPBXを契約する 端末と設定画面の操作だけ オフィスの代表電話・内線をスマホでも受けたい、数十人規模まで 着信の振り分けや外部システム連携は、サービスが用意した範囲に限られる
CPaaS(通話API)で組む 呼制御のプログラム 自社アプリやWebサービスに通話・自動音声・SMSを組み込みたい 通話料が従量課金になる。開発者が必要
自前のPBXを立てる 呼制御のサーバーとその運用すべて 既存の電話機を生かしたい、細かい着信ルールや録音を自由に作りたい サーバーの更新とセキュリティ対策を自社で続ける必要がある

はじめての基盤づくりで「とにかく早く電話が鳴る状態を作りたい」ならクラウドPBX、「自社の業務システムと電話を一体にしたい」ならCPaaS、「電話の挙動を細部まで自分たちで決めたい」なら自前PBXが候補になります。自前PBXのソフトウェアとして国内でも長く使われているのが、オープンソースのAsteriskです。

ステップ1:用途と同時通話数を決める

最初に決めるのは技術ではなく使い方です。次の3点を紙に書き出してください。

  1. 誰が使うか:社員全員の内線か、受付の数人か、コールセンターのオペレーターか
  2. 何をしたいか:代表番号の着信、営業の発信、自動音声案内(IVR)、通話録音、顧客管理システムとの連携
  3. 同時に何本話すか:ピーク時に同時に通話しているのは最大何人か

同時通話数は回線の契約数と必要な通信帯域を決める数字です。たとえば固定電話並みの音質を持つ音声符号化方式G.711で話すと、パケットの付加情報を含めて片方向でおよそ90kbpsを使います。オペレーター10人が同時に話すなら、上り・下りそれぞれ約0.9Mbpsが音声だけで埋まる計算です。帯域を抑えるG.729なら1通話あたり30kbps前後まで下がりますが、音質は少し落ちます。

通話量が少ない拠点でも、ピーク時の同時通話数を少なく見積もると「話し中」で取りこぼす着信が出ます。過去の通話明細があれば、時間帯ごとの着信件数から見積もると外れにくくなります。

ステップ2:使う電話番号を選ぶ

番号は、取引先や顧客に見える会社の顔です。後から変えると名刺やWebサイト、広告の差し替えが発生するので、早めに決めておきます。

番号の種類 特徴 主な入手先
市外局番から始まる番号(0AB-J番号) 地域の会社として信頼されやすい。番号に対応する地域に拠点が必要 ひかり電話、一部のクラウドPBX・SIPトランクサービス
050番号 場所を問わず取得しやすい。サービスによっては110番・119番にかけられない IP電話サービス、クラウドPBX、CPaaS
0120・0800(着信課金番号) かける側の通話料が無料。問い合わせ窓口向け フリーダイヤル提供事業者
0570(ナビダイヤル) 全国共通番号で着信先を切り替えやすい。かける側に通話料がかかる ナビダイヤルの提供事業者

いま使っている固定電話の番号をそのまま新しい基盤へ移したい場合は、移転先のサービスが番号ポータビリティに対応しているかを最初に確認します。対応していないサービスを選ぶと、番号を変えるかサービスを選び直すかの二択になります。

番号の取得には、多くの事業者で法人の本人確認書類の提出が求められます。審査に数営業日から数週間かかることがあるので、構築作業と並行して申し込んでおくと開通が遅れません。

ステップ3:回線をつなぐ

自前PBXやCPaaSを使う場合は、番号と公衆電話網をつなぐ回線を別に用意します。代表的なのは次の2つです。

SIPトランクサービス

インターネットや専用線を通じて、通信事業者の交換機とPBXをSIPで直接つなぐサービスです。契約すると接続先のサーバー名、認証用のユーザー名とパスワード、または接続を許可する自社側のIPアドレスが決まります。PBXをクラウド上に置く場合はこの方式が基本になります。

ひかり電話とホームゲートウェイ

オフィスにひかり電話がある場合、NTTのホームゲートウェイ(HGW)にPBXを内線として登録し、HGW経由で外線をかける構成がよく使われます。インターネット側に電話用の口を開けずに済むため、社内LANの中だけで完結させやすいのが利点です。

クラウドPBXを契約する場合は、回線と番号がサービスに含まれていることが多く、このステップはほぼ申し込みだけで終わります。

ステップ4:呼制御を組む

呼制御は「どの番号への着信を、どの端末に、どんな順で鳴らすか」を決める部分です。クラウドPBXなら管理画面、CPaaSならプログラム、自前PBXなら設定ファイルで組みます。決める内容はどれも同じです。

  • 内線番号の割り当て(例:営業部は201〜209、総務は301〜309)
  • 代表番号への着信をどのグループで受けるか、何秒鳴って誰も出なければどうするか
  • 営業時間外の着信を留守番電話にするか、時間外案内を流すか
  • 保留・転送・パーク(保留した通話を別の電話機で取る機能)の操作方法
  • 通話録音の対象と保存期間

Asteriskで内線2台を鳴らす最小構成

自前PBXの感触をつかむために、Asteriskで内線同士が話せる最小の設定を示します。SIPの処理には、現在のAsteriskで唯一のSIPチャネルとなったPJSIPを使います。社内LANの中だけで試すことを前提にした設定です。

Asteriskの設定フォルダにあるpjsip.conf

[transport-udp]
type=transport
protocol=udp
bind=0.0.0.0:5060

; 内線201の電話機
[201]
type=endpoint
context=internal
disallow=all
allow=ulaw
auth=auth201
aors=201

[auth201]
type=auth
auth_type=userpass
username=201
password=8fKq2vT9wLm4Rz7pYc3N

[201]
type=aor
max_contacts=1

; 内線202も同じ形で、番号とパスワードを変えて書く

Asteriskの設定フォルダにあるextensions.conf

[internal]
exten => _2XX,1,Dial(PJSIP/${EXTEN},20)
 same => n,Hangup()

_2XXは「2で始まる3桁の番号」を表すパターンで、ダイヤルされた番号の端末を20秒鳴らし、出なければ切ります。パスワードは例として載せた文字列をそのまま使わず、必ず自分で生成した長い乱数に置き換えてください。公開されている設定例は攻撃者も読んでいます。

電話機やソフトフォンには、AsteriskサーバーのIPアドレス、ユーザー名(201)、パスワードを入れれば登録できます。2台が登録できたら、201から202へ発信して双方の声が聞こえるかを確かめます。

ステップ5:端末とネットワークを整える

端末は、受付や固定席にはIP電話機、在宅勤務者にはPCのソフトフォンやスマートフォンアプリ、と使い分けるのが一般的です。保留・転送をボタン1つで行いたい席には、BLF(他の内線の通話状態をランプで表示する機能)に対応した電話機を選ぶと操作が速くなります。

音質の問題は、ほとんどがネットワーク側で起きます。電話の会話は片道150ミリ秒を超える遅延があると違和感が出始めるとされ(ITU-T G.114)、パケットの到着間隔のばらつき(ジッター)が大きいと声が途切れます。次の点を確認してください。

  • 音声の優先制御:ルーターやスイッチで、音声パケット(DSCP値46=EF)を優先して送る設定にする
  • 音声用のネットワークを分ける:電話機だけを別のVLANに入れると、大きなファイル転送の影響を受けにくい
  • NATの扱い:PBXがルーターの内側にある場合、声が片方にしか聞こえない「片通話」が起きやすい。AsteriskのPJSIPでは端末側の設定にrtp_symmetric=yes、force_rport=yes、rewrite_contact=yesを入れるのが定番の対処
  • RTPのポート範囲:Asteriskの初期値はrtp.confのUDP 10000〜20000番。ファイアウォールで開ける範囲と一致させる

ステップ6:不正利用から守る

音声電話の基盤で一番怖いのは、外部の人間に勝手に発信される「タダがけ」です。攻撃者は内線のIDとパスワードを総当たりで探し、見つけると高額な国際電話を大量にかけます。請求は回線の契約者である自社に届きます。SIPの標準ポートであるUDP 5060番をインターネットに開けると、数分から数時間で総当たりの通信が届き始めます。

守り方は、入口を絞る対策と、破られたときに被害を止める対策の両方を組み合わせます。

対策 中身
インターネットに出さない 在宅勤務者はVPN経由で接続させ、PBXのSIPポートを外に開けない
送信元IPアドレスで制限 SIPトランクの相手や拠点の固定IPアドレスからの通信だけを許可する
総当たりの自動遮断 Fail2banなどでログを監視し、認証に何度も失敗したIPアドレスを遮断する
長いパスワード 内線ごとに20文字以上の乱数を使い、使い回さない
発信の制限 国際電話や高額な番号への発信を、許可した内線以外から出せないようにする
回線契約で止める 国際電話を使わないなら、回線側で国際発信を止めておく
暗号化 インターネットを通る区間はSIP-TLSとSRTPで、合図と声を暗号化する

自前PBXの場合は、ソフトウェアの更新も守りの一部です。Asteriskは版ごとにサポート期限が決まっていて、たとえばAsterisk 20は2026年10月19日で不具合修正が終わり、以降は2027年10月19日までセキュリティ修正だけが提供されます。Asterisk 22は2028年10月まで全面サポートが続きます。新しく作る基盤なら、長期サポート版の新しいものを選ぶと更新の手間を先送りできます。版ごとの期限や移行時の注意点はVoIP-Info.jpのメインページを初心者向けに解説した記事で詳しく扱っています。

法律と緊急通報で確認しておくこと

社内で使うためだけに電話の基盤を作るなら、特別な許可は要りません。一方、作った基盤を使って他社に通話サービスを提供する場合は、電気通信事業法にもとづく届出や登録が必要になる可能性があります。自社の業務の範囲を超えて番号や通話を販売する計画があるなら、総務省の電気通信事業参入マニュアルを読み、早い段階で専門家に確認してください。

緊急通報も見落としやすい点です。050番号のサービスや自前PBXの構成によっては、110番・118番・119番に発信できないことがあります。発信できない場合は、オフィスに緊急通報用の電話を別に残す、電話機に「緊急通報は携帯電話から」と表示しておく、といった手当てが必要です。

通話を録音する場合は、着信時の音声案内で「品質向上のため通話を録音しています」と知らせる運用が一般的です。録音データには個人情報が含まれるため、保存期間と閲覧できる人を決めておきます。

運用を始める前のテスト項目

電話は止まると業務が止まります。切り替えの前に、次の項目を実際にかけて確かめます。

  1. 内線同士で発着信し、双方の声が聞こえる
  2. 外線へ発信し、相手側に自社の番号が正しく表示される
  3. 外からの着信が、設定したグループの電話機で鳴る
  4. 保留・転送・パークが、想定した操作でできる
  5. 営業時間外の着信が、時間外案内や留守番電話に回る
  6. 在宅勤務者の端末から発着信し、片通話や途切れが起きない
  7. 許可していない内線から国際電話にかけると止まる
  8. 緊急通報番号への発信がどう扱われるかを確認した(発信テストは行わず、提供事業者の仕様で確認する)
  9. 停電やインターネット障害のとき、どの番号に着信が転送されるかを決めた

切り替え日は、着信の少ない曜日・時間帯を選びます。旧環境は数日から1週間ほど残しておくと、不具合が出たときにすぐ戻せます。

よくある質問

小さな会社でも自前のPBXを作る意味はありますか

内線が数台で、着信ルールも単純ならクラウドPBXのほうが手間は少なくなります。自前PBXが生きるのは、既存のIP電話機を使い続けたい、顧客管理システムと着信を連動させたい、録音データを社内に置きたい、といった要件があるときです。小規模ならRaspberry PiにAsteriskを入れて動かす構成もあります。

スマートフォンだけで会社の電話を受けられますか

受けられます。クラウドPBXの多くは専用アプリを用意していて、自前PBXでもSIP対応のソフトフォンアプリを使えば内線として登録できます。社外から使う場合は、VPNを通すかSIP-TLSで暗号化した接続にしてください。

通話品質が悪いとき、最初にどこを見ればよいですか

声が片方にしか聞こえないならNATとファイアウォールのRTPポート、途切れるなら回線の混雑と音声の優先制御、遅れて聞こえるなら通信経路の遅延を疑います。PBX側の通話ログと、端末側の受信パケットの欠落率を突き合わせると原因の場所を絞り込めます。

どこまで自社でやり、どこから外注すべきですか

番号の選定と着信ルールの設計は、業務を知る自社が決めるべき部分です。自前PBXのサーバー構築・セキュリティ設定・監視は経験の差が出やすいので、慣れた開発会社に任せる選択肢もあります。依頼先を比べるときはシステム開発会社おすすめランキングも参考になります。

まとめ

音声電話の基盤づくりは、番号・回線・呼制御・端末・守りの5つを順に決めていく作業です。まずはピーク時の同時通話数と、使いたい電話番号を決めてください。この2つが決まれば、クラウドPBX・CPaaS・自前PBXのどれが合うかは自然に絞れます。

自前PBXを選ぶ場合は、SIPポートをインターネットに開けない構成から始め、国際発信の制限とソフトウェアの更新計画を最初の設計に入れておきます。テストでは内線・外線・転送・時間外・在宅端末・発信制限を実際にかけて確かめ、旧環境を残したまま切り替えると、開通日のトラブルを最小限にできます。

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