Twilioのような通話APIを、日本の050番号で自社サービスとして提供したい。契約企業ごとに専用の050番号を割り当て、ブラウザから発着信でき、録音・文字起こし・営業結果の記録まで1つの画面で済む電話サービスを作りたい。こうした構想は、電話営業の現場を持つ会社ほど一度は考えるものです。
当社でも、電話営業向けのクラウド電話サービスを社内で検討し、必要な部品・法的な手続き・費用を洗い出しました。先に結論を書くと、通信網は自社で持たず、通信事業者から050番号と回線を卸してもらい、その上のソフトウェアだけを自社で作るのが現実的な形です。携帯の基地局も交換機も、MVNOになる必要もありません。ここでは、その検討で整理した内容を順番に紹介します。
自社で作る部分と、通信事業者に任せる部分
最初に決めるのは役割分担です。電話番号そのものと、日本の電話網への接続は通信事業者の領分です。自社が作るのはその上に載るソフトウェアです。
| 担当 | 持つもの |
|---|---|
| 卸元の通信事業者 | 050番号の割当、日本の電話網との接続、SIPトランク(自社設備とつなぐ回線) |
| 自社 | 通話API、ブラウザ電話、録音、AI文字起こし、CRM連携、番号の管理データベース |
卸元に求めるものは4つだけです。
- 050番号を必要な数だけ払い出してもらえること
- 発信と着信ができる回線があること
- SIPで自社の通話サーバーに接続できること
- 番号を契約企業(エンドユーザー)へ割り当てて再販してよいこと
ブラウザ電話やCRM連携を卸元に作ってもらう必要はありません。卸元のサービスにそうした機能が付いていなくても、上の4つを満たしていれば候補になります。
050番号の卸先を選ぶときの見方
050番号を扱う事業者には、大きく分けて2種類あります。1つは一般の企業向けに番号とSIPトランクを月額で売っているサービス、もう1つは他社のサービスに組み込む前提で番号を卸している事業者です。再販する以上、選ぶのは後者です。
卸・再販向けの事業者は、ほとんどが個別見積りで、料金表を公開していません。申し込みボタンで即日開通する形ではなく、サービス内容の説明、条件交渉、個別契約という順に進みます。最低契約期間を1年に設けている事業者もあります。
料金の目安をつかむには、一般向けサービスの公開価格が参考になります。050番号は1番号あたり月100〜200円程度、SIPトランクは1チャネル(同時通話1本分)あたり月2,000円前後で、最低契約チャネル数が決まっているサービスもあります。100番号なら番号代は月1万〜2万円です。100〜300番号ほどの規模では、番号代よりもチャネル料と通話料のほうが費用の大部分を占めることになります。
卸元との最初の打ち合わせでは、次の項目を一通り聞いておくと、後で比較するときに抜けが出ません。
| 分類 | 確認する項目 |
|---|---|
| 価格 | 1番号あたりの初期費用と月額、100・1,000・10,000番号での卸価格、固定電話宛と携帯電話宛の通話単価、着信料金、チャネルごとの料金 |
| 接続 | SIP接続の可否、認証方式(IP認証かREGISTER認証か)、VPNや専用線が必要か |
| 番号 | 追加できる単位、発行までの日数、番号一覧の取得方法、APIやCSVで発番できるか |
| 再販 | エンドユーザーへの再販の可否、契約企業の本人確認の要件 |
| 用途 | 電話営業での利用の可否、発信量の上限、大量発信をしたときの制限 |
| 機能 | 録音の可否、発信者番号の通知、迷惑電話への対策 |
| リスク・法務 | 不正利用が起きたときの停止ルールと責任範囲、番号使用計画と事業届出での役割分担 |
| 契約 | 最低契約数、最低利用期間、番号の解約方法 |
電話営業に使うなら、そのことは最初の問い合わせで伝えておきます。契約後に用途が規約に合わないと分かると、番号の入れ替えから顧客への案内までやり直しになるためです。
電気通信事業の届出と番号の手続き
050番号を契約企業へ割り当てて提供すると、自社も通信サービスを提供する側になります。そのため、事業を始める前に手続きが必要です。
- 電気通信事業の届出(構成によっては登録):大規模な回線設備を持たない小規模な再販であれば、届出で済む可能性が高いとされています。届出は事業開始前に行い、手数料はかかりません。
- 電気通信番号使用計画:電話番号を使うサービスのため、番号使用計画の認定が自社にも必要かどうかを確認します。契約の形によって変わるので、卸元と総務省側の両方に役割分担を確かめます。
- 事前相談:届出か登録かの判断も構成で変わるため、構成図を持って管轄の総合通信局へ相談するのが確実です。
あわせて、サービスの設計にも2つの決まりを入れておきます。
- 発信者番号は割り当てた番号だけにする。契約企業が任意の番号を発信元として名乗れる作りにすると、なりすましに使われます。
- 登録した瞬間に番号が取れる作りにしない。法人確認、アカウント承認、番号発行の順に進める流れにしておくと不正利用を防げますし、卸元の審査でも説明しやすくなります。
システム構成:SIPトランクからブラウザ電話まで
全体の流れは次のとおりです。
相手の携帯・固定電話 ⇔ 日本の電話網 ⇔ 卸元の通信事業者 ⇔(SIPトランク)⇔ 自社のSBC・通話サーバー ⇔ 自社API(録音・文字起こし・CRM連携)⇔(WebRTC)⇔ 契約企業のブラウザ電話
SIPは発信・着信・切断・転送・保留といった通話の合図をやり取りする取り決めで、会話の音声そのものはRTPという別の通信で流れます。部品ごとの役割は次の表のとおりです。
| 部品 | 役割 | 補足 |
|---|---|---|
| SBC(Kamailio・OpenSIPSなど) | 認証、IP制限、DoS対策、SIPの振り分け、負荷分散 | 最初の試作では省いて、卸元から通話サーバーへ直接つないでもよい。利用者が増えたら前段に置く |
| 通話サーバー(FreeSWITCH) | 発着信、保留、転送、録音、自動音声応答、WebRTCの受け口 | 小さく始めるだけならAsteriskでも足りる。同時通話が多くAPI中心で動かすならFreeSWITCHが扱いやすい |
| 番号管理データベース | 番号、契約企業、SIPの経路、状態、利用開始日、解約日を持つ | 契約時に「空き番号を検索、割り当て、経路を設定、利用開始」の順で処理する |
| 自社API | 発信(発信元と宛先を指定)、番号割当、通話履歴と録音の取得 | ここを作ると、外から見てTwilioのような通話APIになる |
| ブラウザ電話 | Chromeで番号を入れて発信ボタンを押すだけで通話できる | PCに電話機をつなぐ必要がなくなる |
この構成で見落とされやすいのが番号管理データベースの役割です。卸元にリアルタイムで番号を発行するAPIが無くても、先に100番号ほどまとめて仕入れておき、自社のAPIで未使用の番号を割り当てれば、契約企業から見れば申し込んだその場で番号が使えるサービスになります。卸元の発番の仕組みに左右されずにサービスを設計できるのが、この方式の利点です。
着信は逆の流れになります。電話網から卸元、SIPを通って通話サーバーに届いた着信を、番号管理データベースで契約企業と照らし合わせ、その企業の担当者のブラウザへ鳴らします。
録音とAIで通話結果を自動で記録する
番号と通話だけなら既存のクラウドPBXでも足ります。自社で作る価値が出るのは、通話のあとの処理です。
- 通話が終わったら録音を保存し、通話ID、契約企業、発信元、宛先、開始時刻、終了時刻、通話時間、録音の保存先を記録する
- 録音を音声認識で文字に起こす
- 文字起こしを大規模言語モデルで要約する
- 通話の結果を自動で分類する(受付で断られた/担当者が不在/決裁者につながった/かけ直し/資料送付/アポ獲得)
- 分類した結果をCRMの該当する顧客に書き込む
電話営業では、通話のたびに結果を手で入力する作業が担当者の時間を大きく取ります。この入力が通話の終了と同時に済めば、1日にかけられる件数がそのまま増えます。
月額費用の試算:100番号・10チャネルで約15万円
一般向けサービスの公開価格を目安に、100番号・同時通話10チャネルで運用した場合を試算しました。卸価格は個別見積りなので、実際の金額は商談で変わります。
| 項目 | 前提 | 月額 |
|---|---|---|
| 050番号 | 1番号150円×100番号 | 15,000円 |
| SIPチャネル料 | 1チャネル2,000円×10チャネル | 20,000円 |
| 通話料 | 月間の概算 | 50,000円 |
| サーバー | 通話サーバーとAPI | 30,000円 |
| 録音の保存 | ストレージ費 | 5,000円 |
| AI利用料 | 文字起こしと要約 | 30,000円 |
| 合計 | 150,000円 |
番号単価の150円は、公開価格の100円と200円の中間を置いた仮の値です。通話料・サーバー・AI利用料は実際には使った分だけかかるので、通話量が増えれば伸びます。それでも、この規模の通信原価は月数万〜十数万円に収まる見込みです。
初期開発は、通話サーバー、WebRTCのブラウザ電話、API、録音までの最小構成で、数十万〜100万円台前半を見込んでいます。通信設備そのものを作らないので、この水準で始められます。
契約から開通までの8ステップ
- 提供の形を決める:050番号を契約企業ごとに割り当て、ブラウザやアプリで発着信し、録音・文字起こし・CRM連携まで提供する形にする。自社で使うだけでなく再販になるので、届出が必要になる。
- 卸事業者へ問い合わせる:「自社で050番号を使いたい」ではなく、「契約企業に番号を割り当てるサービスなので、卸・再販契約を希望する」と最初に伝える。最初の見積りは「100番号・10チャネル・自社SIP接続・エンドユーザーへの再販」の条件で取ると、各社を同じ条件で比べられる。
- 秘密保持契約、サービス説明、審査:会社概要、サービス概要、想定する顧客、月間の番号数と通話量、電話営業に使うかどうか、契約企業の本人確認の方法、不正利用の防止策を聞かれる。
- 卸条件を詰める:前の章の確認項目を埋めていく。
- SIP接続の仕様書を受け取る:接続先のアドレスとポート、通信方式(UDPかTCPか)、音声の形式(G.711など)、認証方式、許可するIPアドレス。VPNや専用線が必要かも契約前に確認する。
- 総合通信局へ相談し、届出をする:構成図を持って事前相談し、電気通信事業の届出を出す。番号使用計画の手続きの要否もここで確認する。
- 卸契約を結び、番号を払い出してもらう:最初にまとめて契約する方式と、必要に応じて追加で発番する方式がある。
- SIPを開通させ、開発する:卸元から通話サーバー、自社API、ブラウザ電話までをつなぎ、録音・文字起こし・CRM連携を載せる。
最初の規模は、050番号10〜100、同時通話5〜10チャネル、通話サーバー1台、機能は発着信と録音とブラウザ電話だけにします。まず自社の電話営業スタッフが実際の業務で使い、問題がなければ100、500、1,000番号と広げていきます。
電話の部品の基本や、クラウドPBXとAsteriskの違いは音声電話の基盤を自社で作る方法で解説しています。Asteriskを使う場合のサポート期限と攻撃への備えはVoIP-Info.jpとAsteriskの解説にまとめています。
まとめ
050番号で自社の電話サービスを作るとき、自社が持つのは通話サーバーから上のソフトウェアだけです。番号と電話網への接続は卸元に任せ、条件として050番号、発着信できる回線、SIP接続、再販の許可の4つを確かめます。
動き出す順番は、卸元から条件と見積りを取り、構成図を持って総合通信局へ相談し、届出を済ませてから開発に入る流れです。設計では、発信者番号を割り当てた番号に限ることと、法人確認を経てから番号を出すことを最初から組み込んでおけば、審査にも不正利用への備えにもそのまま使えます。

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